東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)271号 判決
一 特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点(請求の原因一及び二)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の一、二、第四号証によれば、審決の理由の要点(請求の原因二)の1及び2記載の事実を認めることができる。
二 そこで、別紙(二)の(A)及び(B)に表示された本件使用商標の使用が本件登録商標(二)の使用にあたるか否かについて、検討する。
1 別紙(二)の(A)及び(B)にほぼ横書で表示された「ドレミ phone」についてみると、「ドレミ」の部分が片仮名で、「phone」の部分が英字で表示されているほか、前者は後者に比し濃色で表示されており、前者は右上り状に各文字が配列されているのに対し後者は個々の文字に若干の傾きはあるもののほぼ横一列に配列されているというように、「ドレミ」の部分と「phone」の部分の表示態様に差異があるものの、それぞれの商標について全体的観察をする限りでは、いずれも個々の文字の大きさはほぼ同じであつて、それがほぼ横一列に配列されているから、視覚上「ドレミphone」という一個の結合体としての商標であるとの印象を与えるものと認めて差支えなく、原告主張のように、「ドレミ」の部分と「phone」の部分との間の右のような差異が両者を全く分断し、視覚上別個のものとしての印象を与え、特に「ドレミ」の部分が独立して商標として機能しているものとはとうてい認めることはできない。
2 次に、別紙(二)の(A)及び(B)に円陣状に表示された「ドレミ phone」についてみると、円形の中心部に音符を配し、上方の円周部分に沿つて「ドレミ」と、下方の円周部分に沿つて「phone」と表示され、各文字の大小、濃淡に差はなく、全体として円周に沿つて各文字が均等に配置されていると認められるから、原告主張のように「ドレミ」の部分が逸早く看取されるように表示され、これが独立して商標として機能しているということはできない。
3 別紙(二)の(B)のうちジヤケツトの表の下に同じ大きさで各文字が横に一列に配列された「ドレミフオン」の部分は、あえて説明を要するまでもなく、視覚上一個の結合体としての商標であるとの印象を与えることは明らかである。
4 一方、本件登録商標(二)は別紙(一)のように「ドレミレコード」と表示されているものである。これに対し本件使用商標は右にみたように、文字の配列に差はあるとしても、「ドレミフオン」又は「ドレミ phone」と表示されている。この両者の商標を対比すると、後者は前者の「レコード」の部分を「フオン」又は「phone」に置きかえて使用していると認められるのであり、本件使用商標は本件登録商標(二)の構成文字を著しく変更して使用したものというべきである。そうだとすると、両商標は社会通念上同一性を欠き、本件使用商標の使用をもつて本件登録商標(二)の使用ということはできないと認めるのが相当である。右に反する原告の主張は、前叙のとおり、本件使用商標中「ドレミ」の部分が独立して商標として機能するとは認められない以上、これを採用することができない。
三 以上述べたところによれば審決の判断に誤りはないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第二 (原告)請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五三年一〇月一九日、その有する登録第八〇五五五一号商標(以下「本件登録商標(一)」という)の商標権につき存続期間の更新登録出願をしたところ、昭和五五年四月二四日、拒絶査定を受けたので、同年七月一〇日、審判の請求をした。特許庁は、右請求を同年審判第一二七七七号事件として審理したうえ、昭和五八年一〇月一一日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一一月三〇日、原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本件登録商標(一)と相互に連合商標となつている登録第八四四六七九号商標(以下「本件登録商標(二)」という。)は別紙(一)に表示したとおりの構成からなり、第二四類の「レコード」を指定商品として、昭和四一年一月一七日に登録出願され、昭和四五年一月二九日にその登録がなされ、昭和五五年一〇月二四日に商標権存続期間の更新の登録がされた。
2 請求人(原告)が本願の出願と同時に提出した本件登録商標(二)の使用説明書における使用の事実を示す書類(A)(レコード盤面の写真)及び(B)(レコードのジヤケツトの表と裏の写真)は、それぞれ別紙(二)の(A)及び(B)に表示したとおりである。
3 そこで、別紙(一)と別紙(二)の(A)及び(B)に表示された商標(以下「本件使用商標」という。)を比較すると、本件登録商標(二)は「ドレミレコード」(横書、以下同じ)の文字をもつて表示されているところ、本件使用商標は、本件登録商標(二)の一部を形成し、顕著に表示された「レコード」の文字の部分を「phone」或は「フオン」(横書、以下同じ)の文字に置き換えて使用されている。
4 してみれば、本件使用商標の使用は本件登録商標(二)の使用ということはできない。
5 したがつて、本件登録商標(一)と相互に連合商標となつている本件登録商標(二)は使用されていないものといわなければならないから、本願は商標法一九条二項但書二号に該当し、更新登録をすることができない。
三 審決を取消すべき事由
1 商標法一九条二項但書の「不使用登録商標の存続期間更新拒否の制度」の運用に当つては、わが国の商標制度が登録主義(非使用主義)を採用して、最初の登録そのものについて登録されるべき商標の使用事実の有無を問題にすることなくこれを許容し、右登録によつて商標に独占排他効を与えていること、世間の嗜好傾向の変化に応じこれに対応する営業人の商的対策も常時流動するため、登録商標の使用方式も固定的なものとはいえないことに鑑み、願書に添付された使用証明書の全趣旨を実質的に検討し、商標権者が切実に当該商標の存続を必要としているか否について判断することが必要である。
2 そこで、原告が提出した使用事実説明書に表示された本件使用商標のうち特に別紙(二)の(B)についてみると、(イ)上部に大きく表示されている「ドレミphone」(横書、以下同じ。)の文字のうち、「ドレミ」とこれに続く「phone」とは、第一に片仮名と英字という質的な差がある、第二に前者は濃色で力強く書かれているのに対し後者は淡色で弱く書かれている、第三に前者は特に尻上りの傾斜状にしやれて書かれているという三点にわたる顕著な差異があり、そのため両者は一体として馴染みにくく、前者の部分のみ独立して商標として機能する可能性が強い。(ロ)更に右両者を小形にかつ円陣状に連ねて表示した文字にあつても、片仮名の「ドレミ」が上部に見易く表示されているのに対し英字の「phone」は下部に見づらく書かれていて、前者のみが逸早く看守されるような形態をなしている。
右の(イ)、(ロ)の二点からみて、この構成においては、「ドレミ」の部分のみが独立して商標として機能する可能性がきわめて大きいことは否定することができない。
3 他方、本件登録商標(二)は片仮名で「ドレミレコード」と表示されているが、指定商品がレコードである関係上、右の文字のうち「レコード」の部分は単純に当該商品の商品名を表示したにすぎず、商標としての本体そのものは「ドレミ」の部分にあるものと識別される。
4 してみれば、別紙(二)の(A)及び(B)に表示された本件使用商標は本件登録商標(一)の連合商標である本件登録商標(二)の使用にあたるものというべきであり、これによつて、原告が本件登録商標(一)の存続を必要としているものと認めることができる。
5 しかるに、これと反対の見解のもとに本件登録商標(二)の使用の事実を否定し、これと連合商標関係にある本件登録商標(一)の更新登録を拒否した審決は違法であるから、取消を免れない。
第三 (被告)請求の原因の認否及び主張
一 請求の原因一及び二の事実は認めるが、同三は争う。
二 主張
1 本件使用商標の一つである大形文字で少しく湾曲状に表示されている「ドレミ phone」の文字についてみるに、「phone」の文字は「ドレミ」の文字と等しく世人の注意を惹くのに十分な態様で表示され、右文字は全体として結合一体の一つの商標として世人をして認識させるものというべきである。次に、二重同心円の中心部に音符の図形を配し、円輪郭内に星形状の記号を介在させ、その上方部に片仮名で「ドレミ」、下方部に英字で「phone」の文字をそれぞれ表示してなる本件使用商標において、「phone」の文字は明瞭に目立つように表示されているから、「ドレミ」の文字のみが逸早く看守されるような形態をなしているとはいえない。また、ジヤケツトの下方部に星形状の記号に表示されている「ドレミフオン4月のうた」(横書、以下同じ)の文字中の「ドレミフオン」の部分は片仮名文字で一連不可分の構成をもつて表示されており、世人をして一つの商標として認識させるものというべきである。
2 一方、本件登録商標(二)は、片仮名による同大、同間隔で「ドレミレコード」と表示されており、一連不可分の形態において世人の注意を惹き、認識させるものである。
3 してみれば、本件使用商標は「ドレミphone」或は「ドレミフオン」であると世人に認識させるものというべきところ、本件登録商標(二)は「ドレミレコード」の片仮名文字からなるものであるから、本件使用商標は本件登録商標(二)の構成文字を著しく変更して使用されたものというべく、両者は世人をして別異の商標と認識させるものである。
4 よつて、本願に係る本件登録商標(一)と相互に連合商標となつている本件登録商標(二)は使用されていないものであるから、本願は商標法一九条二項但書二号に該当し登録できないものであり、これと同旨の審決に違法な点はない。
〔編註その二〕 本件に関する商標および別紙は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
(B)
<省略>
<省略>